Stromatolites
ストロマトライト
ストロマトライトという用語はKalkowsky (1908) がドイツのトリアス系湖水堆積物中の層状炭酸塩に対して用いたstromatolithが語源である.以来,様々な起源を持つ堆積物がストロマトライトと呼ばれてきた.狭義には内部に微生物起源の葉理組織を持つドーム状〜柱状の海成炭酸塩堆積物に限定されるが,より広義には,堆積環境を問わず,平坦な形状の堆積体にも適用され,珪質堆積物 (Walter et al., 1972) や蒸発岩 (Rouchy and Monty, 1981) にもこの言葉が用いられている.したがって,淡水環境で発達するトゥファや,温泉環境で発達するトラバーチンをストロマトライトと呼んでも問題はない.
ただし,Riding (2000) は「ストロマトライトは底生微生物による葉理を持つ堆積物である」という定義を推奨している.ストロマトライト中には石灰質マイクローブ等の明瞭な微生物構造はあまり認められない.しかし,その葉理構造は,微生物マットや微生物フィルムを介して発達しており,機械的な堆積作用で生じた葉理構造とは,1) 細かく波打った形状を示すこと,2) 級化構造を欠くことにより,区別出来る.なお,スロンボライト (thrombolites; Aitken, 1967) は葉理を持たない底生微生物による堆積物に対して定義された言葉である.
 現在の海洋では,ストロマトライトは西オーストラリアのシャーク湾やバハマバンクなどの数カ所にしか発達していない.これらの表面にはフィラメント状の藻類やシアノバクテリアが生息し,堆積物のトラップとバインドを行い,葉理を発達させる.これまで,葉理の発達過程を説明するために,1)太陽光の日サイクルを反映した日輪,2)季節的もしくは定期的に起る嵐のイベントによる葉理,3)表面の微生物群集の入れ替わりの2つのモデルが提案されている.
 太陽光の1日サイクルの葉理は,成長速度の大きいシアノバクテリアPhormidium 属が関与していると考えられている (Monty 1967; Gobluc and Focke 1978).これは微生物の走光性を反映している.Phormidium 属の糸状体は,昼は垂直方向に成長し,厚さ2mm~2cmの粘着質なコーティングを作る.この粘着質な表面で,細粒の泥粒子がトラップされる(右図1).糸状体は,夜には水平方向へと横たわる傾向があり,粒子のトラップは起らない(右図2).この糸状体によるトラッププロセスは,ストロマトライトの凸状形態の原因でもある.ドームの中央では堆積物が良くトラップされるために,そこが成長する.一方,傾斜の大きい部分では,堆積物のトラップが起らず,凸状の形態は次第に強調される様になる.このモデルは過去のストロマトライトにも適用されている (Knoll and Golubic 1992).
 SchizothrixやMicrocoleus属では別のモデルが示されている.これらのシアノバクテリアの糸状体は,光の増減とは無関係に,水平方向に成長して,微生物フィルムを作る.ただし,堆積物に埋没されると,表面へと脱出するために,上方へと成長する.表面へと脱出した後は,その方向は再び水平になる.Phormidium属のケースとは異なり,この場合には,ラミナは堆積物の供給量の変化により形成する (Golubic and Browne, 1996).
 近年のバハマバンクでの研究では,ストロマトライトの縞状組織は日輪ではないことが示されている (Reid et al., 2000).縞は数週間〜数ヶ月のインターバルで生じ,表面の微生物群集の定期的な入れ替わりにより発達する.シアノバクテリアは主に,懸濁砕屑物のトラップの役目を果たし,堆積物の石化は硫酸還元細菌の代謝により起る.シアノバクテリアの菌体が硫酸還元を受けると,近傍の微環境でのアルカリ度が上昇し,炭酸塩鉱物の沈澱が誘導されるというモデルである.
 ストロマトライトは地質時代的に遍在している.西オーストラリアや南アフリカから最初に記載された微化石がシアノバクテリアであると考えられていたため,ストロマトライトは始生代の前半から浅海域に発達していたという定説があった.しかし,Lowe (1994) は少なくとも32億年前以前のストロマトライトは蒸発構造などの起源を持つ「偽化石」であると考え,真のストロマトライトはシアノバクテリアが進化し,浅海域が拡大した28〜27億年前以降に出現する,というのが現在の見解である (Hofmann, 2000).原生代に入るとストロマトライトの頻度は一段と増加し,多様な形態を示す様になる (Grotzinger and Knoll, 1999).その後,顕生代に入ると,高等動物の進化により,浅海域での底生微生物が捕食されるようになり,ストロマトライトは減少することになる.
Preface
Authers
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